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2-15 顔

***15*** 

旅行から帰って、2週間が過ぎていた。

朝子は、相変わらず平和な日常を送っていた・・・表面上は。

その日、朝子は朝から部屋をきれいに掃除し来客を待っていた。時計が10時を知らせると共に、暖かい日差しを連れて、キミカはやってきた。

「いらっしゃい。入って入って」

にこにこと微笑む朝子を見て、キミカの表情は曇った。キミカはソファにゆっくり腰を据えると、開口一番、ずっと気になっていたことを朝子に聞いた。

「まさか・・・あいつと寝たんじゃないでしょうね?!」

朝子はため息をつき、苦笑した。「そのまさかよ。・・・しちゃった」

「・・・嘘・・・!」

朝子はうなだれるキミカを見ると、やはり苦笑いをしながら「でも大丈夫・・・もう、二度とないから」そう言って、キッチンに向かった。

朝子の淡々とした様子に、キミカは怪訝な顔を向けた。「アサ・・・?」

紅茶のポットを温めながら、朝子は言った。「有芯と、すごく情熱的に抱き合った。私・・・有芯に愛されてることが手に取るように分かったの。そして私が・・・有芯を誰より愛してることも」

キミカは親友の顔に目を見張った。朝子の横顔は今まで見た中で一番綺麗だった。恋をすると女は変わるって言うけど・・・嘘みたい・・・。

信じられない気持ちと同時に、キミカには一抹の不安がよぎった。

「それって・・・まさか、離婚するの?!」

しかし朝子は、カップに紅茶を注ぎながら平然と言い切った。「まさか。するわけないじゃない」

「だって今、雨宮を誰よりも・・・」

朝子は顔を上げ言った。「愛してるわ」

「だったら・・・なんで?!」

朝子は紅茶のカップをキミカの前に置き、微笑した。「子供が大切だもの。そういうもんよ?!」

キミカはカップを取ると考えた。「私は母親じゃないから分からないのかも知れないけど・・・でも、子供は子供でしょう? 恋人でも夫でもない。そんな存在と雨宮を天秤にかけること自体、何か違うんじゃないかしら・・・?」

カップから立ち昇る湯気と林檎の香りの向こうから、朝子はくすりと笑った。「キミ、離婚してほしいの?!」

「まさか!!」

朝子は視線を外に向けた。そこには、彼女の好きなマーガレットが、つぼみをはち切れんばかりに膨らませている。

「私は母親なの。母親は、子供のためなら大抵のことは頑張れるものよ」

そう言い微笑む朝子は、キミカが知っているいつもの、子供想いな朝子の顔だった。




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